上野&尾崎のカメラ散歩

 

フラッシュ撮影苦労話

上野さん、尾崎さん、今日は撮影アクセサリーについてということですが、どんな話を聞かせて頂けるのでしょうか。

フラッシュガンをセットした35ミリカメラ(ミノルタV2)

フラッシュガンをセットした35ミリカメラ(ミノルタV2)

上野)1960~1970年代のカメラは付属機能がほとんどありませんでした。露出計、ストロボはもとよりセルフタイマーまで無いカメラが一般的でした。
当然のこととして写真を撮るのに小物が必要になりました。
一番厄介だったのが夜間撮影です。ストロボは当時はまだ一般的でなくフラッシュランプ・閃光電球を使う訳です。
カメラのアクセサリーシューにフラッシュガンと呼ばれていた発光器を取り付けて光量・モノクロ/カラー用と必要とするフラッシュランプを選択してセット、カメラのシャッタースピードに同調させて使いました。勿論、一回発光の使いきりです。
このフラッシュランプが結構高く、大事に慎重に使いました。連続撮影はとても無理で一発発光させてランプが冷えるのを待ってランプを取り換えるという具合でした。
高校3年の終わり頃に連続式のフラッシュガンを買いましたが、それでも6連発で一発発光すると次のランプが装填されるちょうどガトリング機関銃のような構造でした。
しかし、フラッシュランプの品質が不安定で発光しないランプもあり、苦労した思い出があります。 外付けのストロボが発売された時には夜間撮影が本当に楽になったと実感したものです。

ストロボはデジタルカメラについているので判りますが、フラッシュランプって何ですか。

FP級とM級のフラッシュランプ

FP級とM級のフラッシュランプ

尾崎)フラッシュランプ・閃光電球は、ガラス電球の中にマグネシュウムやジルコニュウム等の燃えやすいフィラメント状の金属箔と酸素を封入して3~25Vの電流を流して瞬間燃焼させるものです。フラッシュランプにはM級とFP級があり、M級は発光時間が短くレンズシャッター用として1/50~1/60秒のシャッタースピードに合わせて燃焼・発光する形式です。
FP級はフォーカルプレーンの略でフォーカルプレーンのシャッター構造に合わせて発光時間が長くなるように造られており、1/50~1/500秒とほぼ全速のシャッタースピードに同調することが出来ました。
当時の価格は、FP級の標準クラスで1個80円、M級が1個40円程度で、価格が高いので上野さんのお話の通り無駄には使えませんでした。
フラッシュランプは当時の東京芝浦電気(東芝)と松下電器産業(パナソニック)の何と二大メーカーの競合でした。

一発で40円、80円は高いですね。ストロボは何で早くから使われなかったのですか。

ミノルタSR-7とミニカム大型フラッシュガン

ミノルタSR-7とミニカム大型フラッシュガン

尾崎)ストロボは、キセノンガスやクリプトンガスを封入した放電管に2000~2500ボルトの高圧電流を流して放電発光させるのですが、コンデンサーに高圧電気を充電する必要があり初期はコンデンサーの性能が低く充電に時間がかかる問題を解決できず製品化・小型化に手間取りました。
ストロボ内蔵のカメラ本体や外付ストロボの背面にチャージランプがあり、点灯すると発光できるという表示が付いてますが、電池残量が少ないとチャージランプが点かなくてイライラするのと同じです。
私の長兄が結婚した1968年当時でもストロボの発光間隔は長く、速写性が要求される結婚式の撮影には不向きと判断してミニカムという専業メーカーの大型フラッシュガンで150発のフラッシュ撮影を行った事があります。
もちろん、補助としてストロボ付きカメラも用意しましたがストロボで2回撮影する時間に3回のフラッシュ撮影が出来た記憶があります。
この時のフラッシュランプ代が12000円でした。大学卒の初任給が24000円の当時で、私の最後の本格フラッシュ撮影となりました。

AG-1小型フラッシュランプ

AG-1小型フラッシュランプ

上野)フラッシュランプはM級の小型球でも携行性が悪く、マガジン式の6連式やキューブの4連式、電球の口金のない小型ランプが開発されて、当時流行の小型カメラやポケットカメラにフラッシュガンが内蔵される等、急速に発展しましたね。
特に、AG-1という口金の無いフラッシュランプとキューブ式のランプは各社の小型カメラに搭載されました。

4連式のMAGICUBES(SYLVANIA社)と10連式FLIP FLASH(SYLVANIA社)

4連式のMAGICUBES(SYLVANIA社)と10連式FLIP FLASH(SYLVANIA社)

AG-1フラッシュガンを内蔵したコンパクトカメラ イコマチックF(ツアイス・イコン)

AG-1フラッシュガンを内蔵したコンパクトカメラ イコマチックF(ツアイス・イコン)


10連式FLIP FLASHを取付けたコダック110ポケットカメラ

10連式FLIP FLASHを取付けたコダック110ポケットカメラ

尾崎)ほとんど全カメラメーカーが製品化しましたね。ちょうど110フィルムのポケットカメラやカートリッジ式のインスタマチックカメラの全盛期ですね。
私が面白いと思ったのは、リコーが1964年に発売した「リコー・オートショット」でレンズキャップの裏側がフラッシュガンになっていてアクセサリーシューに取り付けて使用できるユニークなカメラで、カメラ本体は14800円でした。この「リコー・オートショット」もAG-1フラッシュランプを使っていました。

上野)「リコー・オートショット」は、東京オリンピックの公式記録カメラに選ばれたカメラですね。

ストロボの製品化はどのような展開だったのですか。

コニカC35EF(ピッカリコニカ)

コニカC35EF(ピッカリコニカ)

上野)1965年にサンパックという専業メーカーが「サンパック7」というカメラのアクセサリーシューに取り付けるコンパクトな製品を発売して人気を集めましたが、尾崎さんの話のように発光間隔が長くてイライラしました。
ストロボもサンパック、カコ、ミニカム等の専業メーカーの製品が最初は先行しましたね。もちろん、東芝も松下電器も数多くの製品を作りました。
カメラメーカーが自社ブランドの製品を投入するようになると交換レンズと同様に専業メーカー製品は苦戦を強いられました。
ストロボがカメラに内蔵されたのは1974年のコニカC35EF(ピッカリコニカ)が最初でコンデンサーの小型化に10年近くかかってしまった事になります。
このピッカリコニカは「ストロボ屋さんゴメンナサイ」のキャッチコピー通りに2年間で100万台を超える大ヒットとなり、ピッカリコニカ以降の各社小型カメラはストロボ内蔵が業界標準になってしまい、「ストロボ屋さんゴメンナサイ」の通り外付けストロボの需要は一気に減衰してしまいました。
当時のコニカの技術者が現像所でユーザーの撮影に失敗した原因を調査、一番の原因が露出不足であった事からその対策としてストロボ内蔵にチャレンジしたとのエピソードが残っています。

ペンタックスSF-X(旭光学・ペンタックス)

ペンタックスSF-X(旭光学・ペンタックス)

尾崎)一眼レフでは、ペンタックスのSF-Xがペンタプリズム部にリトラクタブル形式のストロボを搭載した最初の製品でピッカリコニカより10年以上遅れた1987年です。
この世界初のストロボ内蔵オートフォーカス一眼レフ・ペンタックスSF-Xに続けとばかり各社のオートフォーカス一眼レフへのストロボ搭載が始まりました。
しかし、ストロボ搭載は初心者向けの低価格機から中級機までとしたメーカーと、プロ仕様のフラッグシップ機まで搭載したメーカーに分かれ、フラッグシップ機に対するメーカー思想が明確に分かれました。

ストロボ内蔵フラッグシップ1眼レフ(ミノルタα-9)

ストロボ内蔵フラッグシップ1眼レフ(ミノルタα-9)

上野)フラッグシップ機までストロボを搭載したのがミノルタ(コニカミノルタ)のα9。α9が発売された1998年にはフラッグシップ機へのストロボ搭載の是非についてカメラ雑誌をにぎわせましたね。
ニコンとキャノンの二社はフラッグシップ機へのストロボ搭載を行わず、ニコンAF一眼レフF6(2004年発売)キャノンEOS-1v(2000年発売)は現在も販売されている最上位フィルムAF一眼レフ機ですが、ミノルタα9よりも遅れて発売されたにも関わらずストロボはありません。
内臓ストロボは光量がガイドナンバー18~22程度と小さいためにプロ用途としては補助光程度の利用価値になりますが、あれば便利と思うのですがメーカーのこだわりですね。

スピードグラフィックス(米:グラフィックス社)

スピードグラフィックス(米:グラフィックス社)

尾崎)最近は、デジタル一眼レフでASA1200~3200の高感度撮影が比較的容易にできるためにカメラ内蔵ストロボ、外付けストロボの出番は少なくなっているようです。
つい最近、大型ストロボ用の積層乾電池の販売が終了しました。報道写真でも単三乾電池の外付けストロボで対応できてしまう時代になったのですね。

上野)アメリカ製のスピグラ(スピードグラフィックス)というプレスカメラにグリップタイプの大型フラッシュを組合せた報道写真定番スタイルでの「一発必中」の世界は遠い語り草ですね。

尾崎さんはストロボをどのように使うのですか。

ディフューザー付ストロボによるバウンド撮影

ディフューザー付ストロボによるバウンド撮影

尾崎)私はペンタックス645という中判サイズのカメラで夜景を中心とした風景写真を撮っているのでストロボは余り使いません。ただ、苦手とする女性を撮影する場合は、室内外を問わずストロボは多用します。日中シンクロでディフューザーを付けたストロボでのバウンド撮影は女性をきれいに撮る必須条件ですね。

上野)女性ポートレートにも関係する面白いデータがあります。博報堂が実施した2009年の生活行動調査で、37%の人が「大切な人」「ペット」の写真プリント、画像を持ち歩いているとの結果が出ています。
男女比では女性が42.7%と高く、男性は32.7%でした。注目は持ち歩いてる写真の内容で男性は、子供(62.7%)→妻(42.5%)→ペット(27.2%)の順で妥当な結果でしたが、女性は、子供(54%)→ペット(33.7%)→夫(25.0%)となりました。

かわいそう、奥さんにとっては、夫はペット以下なんですか。

上野)この調査でもデジタル化の影響は顕著で、持ち歩きの手段として携帯電話が87.3%と圧倒的で、写真プリントは30%程度でした。
携帯電話ではなく、ちゃんとカメラで撮って欲しいですね。

ちなみに上野さんは、奥様の写真を持ち歩いていらっしゃいますよね。

上野)????